内なるパラダイムチェンジャーへの道:クリーンな社会を支える

目指す。高性能次世代太陽電池 ~薄膜太陽電池技術とヘテロ接合技術の融合~

カネカは、日本政府が2020年10月に宣言した「2050年カーボンニュートラル」への実践に向け、産官学の連携強化を通じた技術の融合を軸に、高性能次世代太陽電池でクリーンな社会を支えます。

壁面設置型太陽光発電システムの社会実装

カネカは、大成建設株式会社と壁面設置太陽光発電システムの共同開発に取り組み、2019年12月に建物の外壁や窓と一体化させた太陽電池モジュールで発電する外装システム「T-Green® Multi Solar」(T-Greenは、大成建設株式会社の登録商標です)を開発しました。特に、窓と一体化する次世代シースルー太陽電池は、当社の両面受光ヘテロ接合太陽電池のセル技術と、建築用Low-Eガラスとを組み合わせることにより、発電量の向上とLow-E複層ガラス(※1)による断熱性向上を両立する、新しいBIPV(Building Integrated Photovoltaics)としての共同開発です。外壁部に設置するソリッド型太陽電池は電極線が外観から見えないセル構造であり高意匠性を有していることから、ビル外装のスパンドレル部(※2)へ適用可能な高効率太陽電池と位置付けられます。これらの組み合わせにより、ガラスカーテンウォール(※3)を有するさまざまなビル外壁へ適用可能な太陽光発電システムです。一部の技術は、高効率結晶系シースルー太陽電池として国立競技場の屋根のひさし部に採用されました。両社は、新たにプレキャストコンクリート(※4)一体型太陽電池や既設建物のリニューアルPVの開発をスタートし、多様な建築物壁面へのBIPVの実装を計画しています。
カネカはカーボンニュートラルの社会実現に向け、産官学の連携強化を通じて、高性能次世代太陽電池を搭載した「発電する住宅、ビル」の実現を目指してまいります。

※1 Low-E複層ガラス:特殊金属膜をコーティングした低放射(Low-E)ガラスを使った複層ガラス。

※2 スパンドレル部:建築基準法施行令112条に定められている外壁の区画。開口部から開口部への火の回りを防止するために、開口部同士の間隔をあけたり、腰壁などで遮ったりする。

※3 ガラスカーテンウォール:建築物で、構造上の荷重を支えない壁。総ガラスの壁やパネルの外壁など。

※4 プレキャストコンクリート:現場で組み立て・設置を行うために、工場などであらかじめ製造されたコンクリート製品、あるいはこれを用いた工法。

写真:導入イメージ

導入イメージ

写真:国立競技場内観(大成建設株式会社提供)

国立競技場内観(大成建設株式会社提供)

ソリッドタイプ(外壁部)とシースルータイプ(窓部)の特長

図:ソリッドタイプ(外壁部)とシースルータイプ(窓部)の特長

薄膜シリコンタンデム太陽電池からヘテロ接合結晶シリコン太陽電池へ

結晶シリコン太陽電池は、現在、全世界の太陽電池生産量の95%を占めています。
カネカは、薄膜シリコンタンデムの技術を展開して開発したヘテロ接合技術を用いて、結晶シリコン太陽電池の変換効率の世界記録であるセル変換効率26.7%、モジュール変換効率24.5%を「ヘテロ接合バックコンタクト結晶シリコン太陽電池(写真1)」において達成しています。
現在、この技術を車載用太陽電池として社会実装すべく研究開発を進めています(写真2)。この開発では、太陽電池の低コスト化や高効率化などの技術開発はもちろんのこと、お客様とのすり合わせ技術が非常に重要です。カネカは、モビリティをはじめとした新しい社会スタイルへこの技術の実装を目指し、取り組んでいます。

写真:ヘテロ接合バックコンタクト結晶シリコン太陽電池セル

(写真1)ヘテロ接合バックコンタクト結晶シリコン太陽電池セル

写真:トヨタ自動車株式会社の低速自動運転EV「e-Palette」のルーフガラス部分に当社太陽電池が採用

(写真2)トヨタ自動車株式会社の低速自動運転EV「e-Palette」のルーフガラス部分に当社太陽電池が採用(写真提供:トヨタ自動車株式会社)

ヘテロ接合結晶シリコン太陽電池から高性能タンデム太陽電池への展開

さらなる飛躍的な効率向上を狙い、高性能次世代太陽電池(ペロブスカイト/ヘテロ接合結晶シリコンタンデム太陽電池)の研究開発に取り組んでいます。当社が開発してきた世界最高の「ヘテロ接合結晶シリコン太陽電池」をボトム太陽電池、「ペロブスカイト太陽電池(※5)」をトップ太陽電池として組み合わせたタンデム型です。
この組み合わせにおいては、薄膜シリコンタンデム太陽電池で開発した中間層が重要です。実測のパラメータを用いた確度の高いシミュレーションでは変換効率35%の達成は可能との結果を得ています。現在、この設計の検証を進めており、すでに小面積(1cm²)では30%にせまる世界最高水準の変換効率が得られています。実用化においては、薄膜シリコンタンデム太陽電池の技術蓄積も、将来の製造での差別化技術になると考えています。
太陽電池の高効率化は、発電コスト(LCOE: Levelized Cost Of Electricity)低減に有効であるだけでなく、新市場への展開を可能にします。例えば、変換効率が1.5倍になれば、同じ面積から1.5倍の発電が可能となり、高効率化により大きな環境負荷低減も期待できます。

当社が開発した太陽電池の種類と構造およびセル変換効率

図:当社が開発した太陽電池の種類と構造およびセル変換効率

※5 ペロブスカイト太陽電池:光吸収層としてペロブスカイト構造の材料を用いた太陽電池。

※6 薄膜シリコンタンデム太陽電池:光吸収層にアモルファスシリコン薄膜と微結晶シリコン薄膜を用いた積層型太陽電池。タンデム太陽電池は、短波長光を吸収する太陽電池セル(トップセル)と長波長光を吸収する太陽電池セル(ボトムセル)を積層した太陽電池で、複数のセルを積層することで変換効率を向上させることができる。

※7 ヘテロ接合結晶シリコン太陽電池:結晶シリコンとアモルファスシリコンの組み合わせによるヘテロ接合を有する結晶シリコン太陽電池。ヘテロ接合技術は物性の異なる半導体材料を接合する技術で、欠陥低減などにより変換効率を向上させることができる。

※8 ヘテロ接合結晶バックコンタクト結晶シリコン太陽電池:ヘテロ接合技術とバックコンタクト技術を組み合わせた結晶シリコン太陽電池。バックコンタクト技術は太陽電池の裏側にのみ電極をつくり電気を取り出す技術で、電極を裏面に集約することで、受光面を広くできるため、変換効率を向上させることができる。

※9 Solar cell efficiency tables (Version 57), Prog. Photovolt. Res. Appl. 2020;1–13

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